不動産相続は、相続人が遺産分割協議によって進めることもあれば、生前の被相続人の意思や遺言書などで進めることもあります。 また、被相続人は、特定の相続人を指定し、“相続廃除”をすることが可能です。 ここからは、不動産相続における相続廃除の詳細について解説したいと思います。
不動産相続における相続廃除の概要
不動産相続における相続廃除とは、被相続人に対する長きにわたる暴力や虐待があった場合、多額の借金を返済させられていた場合などに、その相続人から相続権を剥奪できる権利のことをいいます。 こちらが確定すると、対象となった相続人の戸籍にその旨が記載され、不動産を含む被相続人の財産を一切相続できなくなります。 また、相続権を失うことから、最低限の財産を相続できる権利である遺留分についても、すべて剥奪されます。 被相続人にとって、苦痛の原因となった相続人に対し、不動産をはじめとする自身の財産を相続することは不本意なことから、このような制度が存在しています。
相続廃除が認められる条件
不動産相続における相続廃除が認められる条件は、民法で以下のように定められています。 ・被相続人に対する虐待や重大な侮辱がある場合 ・推定相続人にその他の著しい非行がある場合 先ほども少し触れましたが、被相続人に対する虐待は、被相続人に対する暴力や耐えがたい精神的な苦痛を与える行為、重大な侮辱は、被相続人に対する同人の名誉、感情を害する行為を指しています。 また、著しい非行とは、虐待や侮辱などには該当しないものの、それに類する程度の非行のことをいいます。 例えば、犯罪や服役、遺棄、被相続人の財産の浪費や無断処分、不貞行為などが該当します。
相続廃除ができるのは被相続人本人のみ
不動産相続における相続廃除が可能なのは、被相続人本人のみです。 そのため、例えば父(被相続人)の不動産について、仲の悪い弟には渡したくないため、兄が相続廃除を申請するというようなことはできません。 また、相続廃除の対象となる相手は、推定相続人の中でも、遺留分を有する者に限定されます。 具体的には、配偶者(夫、妻)、直系卑属(子ども、孫)、直系尊属(父母、祖父母)であり、被相続人の兄弟姉妹などは遺留分がないため、相続廃除の対象にはできません。 兄弟姉妹に不動産を相続したくないという場合は、遺言書に「遺産を一切与えない」と記載することで、兄弟姉妹は自身の取り分を請求できなくなります。
不動産相続における相続廃除の手続き(生前の場合)
被相続人が生前に相続廃除をする場合は、被相続人の住所を管轄する家庭裁判所に対し、下記のような書類に手数料を添えて提出することで、相続廃除の審判を申し立てます。 ・推定相続人廃除の審判申立書 ・被相続人の戸籍謄本(全部事項証明書) ・相続廃除をしたい推定相続人の戸籍謄本(全部事項証明書) 手数料については、収入印紙代が1件あたり880円かかります。 連絡用の郵便切手代については、家庭裁判所によって金額が異なります。
不動産相続における相続廃除の手続き(遺言書の場合)
相続廃除を遺言書で行う場合は、被相続人が遺言で相続廃除する意思を示しておき、実際に被相続人が亡くなってから、遺言執行者(遺言の内容を実現する人物)に相続廃除の手続きを行ってもらいます。 また、遺言書の例文については、以下の通りです。 遺言者○○○○は、本遺言書により次の通り遺言する。 第〇条 遺言者は、次男〇〇〇〇を相続から廃除する。 〇〇〇〇は、ギャンブルと酒に溺れた生活を送っており、金がなくなると親である遺言者の元に来ては無心し、挙句の果てには、「死んで生命保険金をよこせ」などと暴言を吐き、暴力を振るい、親の預貯金を盗むこともしばしばあった。 このように、遺言者に対する虐待、重大な侮辱または著しい非行があると言えるので、同人を廃除する。 第〇条 本遺言の遺言執行者として次の者を指定する。 住所 ○○県〇〇市〇〇一丁目〇番〇号 氏名 司法書士 〇〇〇〇 令和〇年〇月〇日 ○○県〇〇市〇〇一丁目〇番〇号 遺言書 ○○○○ ㊞
不動産相続における相続廃除が認められる確率
不動産相続における相続廃除は、いわば辛い思いをした被相続人を救済するための制度ですが、必ず認められるとは限りません。 残念ながら、相続廃除が家庭裁判所に認められる確率は15%ほどと、決して高くない割合にとどまっています。 相続廃除には、本来あるべきはずの相続人の権利を剥奪するという強力な効果があるため、家庭裁判所は認めて良いのかどうかについて、かなり慎重に見極めて判断を下しています。
まとめ
ここまで、不動産相続における相続廃除に関することを詳しく解説しましたが、いかがでしたでしょうか? 被相続人の持つ財産は、相続が完了するまでは当然被相続人のものであり、誰に相続するかは被相続人の意思である程度決定することができます。 相続廃除はその方法の一つであり、必ず成立するとは限りませんが、自身の置かれている立場や相続人の状況を加味した上で、申し立てをするかどうか検討してください。