既存の建物を取り壊した後、新たに建物を建てることができないのが再建築不可物件ですが、こちらにはいくつかの種類があります。 その1つが既存不適格建築物であり、このような空き家を引き継いだ場合には、用途変更や増改築の際は独自のルールを遵守しなければいけません。 今回は、これらの点について詳しく解説します。
既存不適格建築物の概要
すでに建っている建物のうち、法改正後の新しい規定に適合しないものを既存不適格建築物といいます。 法令等が改正されることにより生じ、建物を建てた時点では法令の規定をクリアしていたものの、その後の改正により不適格となってしまったものを指しています。 建築基準法第3条2項では、建築基準法および施行令等が施行された時点において、すでに存在していた建物等や、その時点ですでに工事中であった建物等については、建築基準法および施行令等の規定に適合しない部分があったとしても、こちらを違法建築とはみなさないという特例を設けています。 つまり、既存不適格建築物は、事実上違法な状態であるものの、法律的には違法ではない建物だということです。 ただし、建築物基準法第10条には、たとえ既存不適格建築物であっても、それが著しく保安上危険であったり、著しく衛生上有害であったりすることが認められる場合、特定行政庁により、相当の猶予期間を設け、所有者等に建物の除外等を命令することができると記載されています。
既存不適格建築物の空き家における用途変更について
建物を用途変更する場合、建物の安全性を確保しなければいけないことから、原則として各用途に応じた技術基準に適合させなければいけません。 建築基準法では、用途変更を行う建物の部分のうち、適法な部分は用途変更後も引き続き適法なものとしなければならないというルールが定められています。 それに加え、用途変更の際には、防火・避難規定、採光規定など、学校や保育所など用途に応じて定められている技術基準の既存不適格の部分については、当該技術基準に適合させることで、建物の安全性を確保しています。 また、建物の用途変更を行い、100㎡を超える特殊建築物とする場合は、建築確認や工事完了の届出が必要になります。 ちなみに、既存不適格建築物の空き家を用途変更する場合、既存不適格建築物として適用を猶予していたものについても、法令に記載されたルールに基づき、現行規定に適合させなければいけません。 このとき、適合させるのは必ずしも建物全体ではなく、規定の趣旨に応じて部分的に適合させます。 具体的には、居室の採光や換気、界壁の防音、内装制限といったルールに関しては、既存不適格建築物の空き家の用途変更を行う際、部分的に適合させなければいけないケースが多いです。 一方、建物全体に適合させなければいけないルールとしては、主に耐火建築物等の義務付けが挙げられます。 例えば、木造の建物を宿泊施設に用途変更する場合、3階以上の部分(耐火建築物)や300㎡以上の2階部分(準耐火建築物)に、耐火建築物等の義務付けが適合されます。
既存不適格建築物の空き家の増改築について
既存不適格建築物の空き家における増改築には、一体増改築と分離増改築があります。 一体増改築は、増改築部分と既存部分を一体で現行の構造計画基準に適合させる必要があるのに対し、分離増改築は増改築部分が現行の構造計算基準に適合、既存部分が耐震診断基準に適合しなければいけません。 また、それぞれの場合で増改築部分の延べ面積が1/2以下の際には、使用上の支障の検討等の一部の基準の適用が除外されます。 ちなみに、分離増改築とは、エキスパンションジョイント(異なる性状を持った構造体同士を分割し、構造物にかかる破壊的な力を伝達しないようにする継目)やその他の相互に応力を伝えない構造方法のみでの増改築にかかる部分と、それ以外の部分が接する増改築を指しています。
既存不適格調書について
既存不適格建築物の空き家の増改築等を行う場合には、既存不適格調書を申請時に提出しなければいけません。 こちらは、その名の通り既存不適格建築物であることを確認するための図書であり、主に以下のものが該当します。 ・現況の調査書 ・既存建築物の平面図および配置図 ・新築または増改築等の時期を示す書類 ・基準時以前の建築基準関係規定への適合を示す図書等 また、一部の特定行政庁では、既存不適格建築物の増改築における確認申請手続きをスムーズにするため、既存不適格調書について、特定行政庁が現況調査のためのチェックリストを独自に提示し、申請者が現況調査を実施しやすく、また審査者が適合状況を確認しやすくする運用を実施しています。
まとめ
ここまで、既存不適格建築物の空き家の用途変更、増改築のルールを中心に解説しましたが、いかがでしたでしょうか? 既存不適格建築物の空き家を親などから引き継いだ場合、用途変更や増改築には、数々の細かい知識が必要です。 しかし、すべてのルールを個人で把握するのは非常に難しいため、実施の際は必ず再建築不可物件など、特殊な物件に精通した専門家に相談するべきです。